
書評『無敵になれる不動産投資〈表〉と〈裏〉教科書』石井彰男・著
2025.8.4
賃貸経営の成功には、時代に応じた戦略と、長年の経験から得られる深い洞察が必要です。プロフェッショナルとして賃貸経営で成果を上げ続けている不動産投資家の著書を取り上げ、その知見を掘り下げていきます。
今回は、『無敵になれる不動産投資〈表〉と〈裏〉教科書』(石井彰男・著/日本実業出版社/2025/7)を紹介します。
税理士大家が教える不動産投資のテクニック
不動産投資・賃貸経営において切っても切れないのが、お金の流れや現在の運営状態を把握するための会計知識です。また、投資拡大においては、いかに条件の良い融資を利用できるかが重要で、その際に要点となるものがその会計知識によって作られた決算書です。投資家に向けた「金融機関からの融資を左右する決算書のポイント」といったセミナーも頻繁に開催されています。
本書『無敵になれる不動産投資〈表〉と〈裏〉教科書』は、会計の視点から賃貸経営を有利に進めるB/S、P/Lといった基礎的な知識から、税金のポイントやノウハウについて紹介しています。著者である石井彰男氏は、会計事務所ロイズ会計の代表税理士であり、その傍らで自身も不動産経営を行っている税理士大家です。
第1章では、賃貸経営を始めるにあたって個人が良いのか法人が良いのかという、初心者が最初に悩むであろう疑問や会計知識の重要性を取り上げ、第2章ではレントロールの重要性や、銀行開拓の効率的なやり方、物件選びにおける簿価や土地建物の按分のポイントを解説。第3章では、決算書の読み方を紹介し、第4章第5章では2期目以降の会計テクニックと黒字倒産を防ぐ会計術が紹介され、そして第6章では「最強」の節税スキームが1つ1つ丁寧に取り上げられています。
著者が「出し惜しみは一切ありません」と記すように、380ページを超えるボリュームで、会計知識だけでなく様々な不動産投資ノウハウが事細かく紹介されていながら、随所にストーリーマンガが挟み込まれており、読みやすいよう工夫されています。
そして、特にキモとなる部分が、第7章「担当者が思わず『YES』と言う銀行格付けアップの秘訣【格付け判定表付き】」でしょう。
銀行が融資を行う際に、どういった部分を見ているのかを、何をもって善し悪しを判断しているのかは、投資家の大きな疑問のひとつです。
銀行が融資を判断する際に、格付けが下がる要因として
- 融資返済の滞納(1か月以上)
- 高金利の借入をした
- 差し押さえを受けた
- 売上の減少など財務指標の悪化
- 不祥事の発生
- 貸借対照表に仮払金、立替金、仮受金などの暫定項目がある
- 役員貸付金がある
の7つが挙げられており、特に仮払金や立替金、役員貸付金などは発生しやすい項目であるため注意が必要な一方、「一時的な損失による赤字が出たとしても、銀行からの評価が落ちることはないようです」と誤解しやすい部分についても言及しています。
また、銀行による格付けがどのように行われているのかを、池井戸潤氏『会社の格付』(中経出版)の内容をもとに、著者が銀行関係者に対して重ねたヒアリングと、自身の推察を加えた「格付け評価項目と配点表」として掲載しています。
自身の投資状況を配点表を使って計算することで10段階の格付けのどの評価なのか。またどのように改善すれば良いのかを把握することができます。
節税や会計といった部分だけでなく、物件選びのポイントなどについても触れられており、初心者からベテラン大家まで幅広くカバーする内容になっています。自身の投資状況の変化とともに何度も読み返すことで、深く知識を身につけることができる一冊です。
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