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『建築会社倒産から立て直し、竣工・清算までのリアル対応マニュアル』ククン・著

賃貸経営の成功には、時代に応じた戦略と、長年の経験から得られる深い洞察が必要です。プロフェッショナルとして賃貸経営で成果を上げ続けている不動産投資家の著書を取り上げ、その知見を掘り下げていきます。

今回は、『建築会社倒産から立て直し、竣工・清算までのリアル対応マニュアル』 (ククン・著/扶桑社/2025年12月)を紹介します。

有名建築会社が倒産、多数の投資物件の建設が中断した大騒動

2023年2月、賃貸住宅の建設などをメインに手がけていた建築会社ユービーエム(以下、UBM)が倒産し、業界紙を中心に大きく取り上げられました。東京商工リサーチの発表によると、2021年4月期の売上は103億円と、数年で大きく業績を伸ばしていた一方で、2022年から始まったロシアのウクライナ侵攻などを発端とした建築費の高騰によって資金繰りが悪化。個人投資家からの手付金を、下請け業者の支払いに回すといった事態に陥り、受注を急ぐばかりにほとんど利益のない薄利な条件での契約が増えることで、より状況は悪化していったと考えられています。

筆者の住まいの近くにもUBMの建設現場があり、倒産直後からその行方を見守っていました。恐らく上棟前、基礎工事が終わった段階だったと思われます。

筆者撮影

倒産直後には、UBMによる警告文に加え、オーナー名義の立ち入り禁止の張り紙も掲示され、現場は物々しい雰囲気に包まれていました。

筆者撮影

後任の建設会社が決まり、動き出したのはそれから1カ月後の2023年3月頃。

筆者撮影
筆者撮影

その後、徐々に工事が進み、同年12月にはほぼ完成している状態となりました。

筆者撮影
筆者撮影

さらに数カ月後、入居募集の看板が掲示されているのを見つけ、記載されていた不動産会社が知人の会社だったことから、連絡を取り経緯を聞くことができました。

話によると、やはり、対象の物件は建築途中で施工会社のUBMが倒産、一時は工事が止まり、「どうなるのか分からない状態」だったといいます。その後、UBMの元メンバー(現場監督やチーム)が中心となって立ち上げた会社に工事が引き継がれ、実質的には“中の人は同じ”形で再スタートし、無事に完成にいたりました。

物件オーナーはUBMで2棟の建築を進めており、当初から1棟は売却を想定していたそうです。その売却相談を受けた知人の不動産会社が、仲介ではなく自社で直接購入。1階はプライベートサロンや家具付き賃貸、2階以上は旅館業として運用するなど、用途を分けた収益化モデルで運営を開始したといいます。

筆者が話を聞けたのは、大きなトラブルなく完成に至ったケースでした。しかし当然ながら、UBMの倒産によって深刻な困難やトラブルに直面した投資家も少なくなかったはずです。では、工事が突然止まり、竣工直前で建築会社が倒産した施主たちは、どのような対応を迫られたのか――。

本書『建築会社倒産から立て直し、竣工・清算までのリアル対応マニュアル』では、竣工まで残り17日というタイミングでUBMが倒産し、残りの工事を完了させるために奔走したククン氏自身が、当時の状況を時系列で詳しく綴っています。

下請け業者を一から探し出し、素人ながら現場監督として各業者や専門家と調整を重ね、物件を完成させて完了検査を受け。これらを、破産の連絡を受けてからわずか1カ月で、トラブルに見舞われながらも押し進めた精神力と粘り強さが印象的です。

帝国データバンクの「建設業」の倒産動向(2025年上半期)によると、2025年上半期の建設業の倒産は986件と4年連続で増加しており、過去10年でも最多ペースで推移しています。人手不足や建材費の高騰は、今もなお事業者を苦しめています。

そういった状況の中でも、ククン氏は新築収益物件がリスクが高いためNGであるとは考えていません。ただし“施主が建築会社の倒産を防ぐ方法はないし、施主の立場で建築会社の内情を知ろうとしてもほぼ不可能”だとも記しています。

だからこそ、倒産という避けがたいリスクに対して施主が唯一できる備えは、“資産の一部売却を繰り返しながら、常に手元資金を厚くしておくこと”だと説きます。リスクヘッジができるのは、最終的に自分自身しかいないという現実的な忠告です。

本書には、ククン氏に加え、建築会社倒産の被害に遭った投資家2名との対談も収録されており、それぞれ異なる立場・対応のモデルケースを知ることができます。

また、テーマは「建設会社倒産からの立て直し」ですが、フリーレントを活用した短期間での入居付けや、賃料設定の考え方など、日常の賃貸経営にも応用できる実践的なノウハウが随所に盛り込まれています。

今後の賃貸経営、とりわけ新築建築を検討している投資家であれば、事前に一読しておきたい一冊と言えるでしょう。

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