
2025年、賃貸繁忙期振り返り。キーワードは「変化」
2025.5.29
2025年の賃貸繁忙期が終了し、今年の賃貸市場の傾向から最新の賃貸動向について紹介します。コロナ禍による一時的な需要低迷から完全に脱却した都心部では、むしろコロナ前を上回る活況を呈している一方、地方・郊外エリアでは依然として厳しい環境が続いています。
2025年繁忙期で顕在化した市場動向を多角的に検証し、賃貸オーナー・不動産投資家に向けて今後の賃貸経営戦略を考えます。
目次
入居者の引っ越しトレンド:デジタルネイティブ世代の新しい住まい選び
まず、2025年の賃貸市場で最も注目すべき変化として、入居者の行動パターンの根本的な変化について詳しく見ていきましょう。
「内見レス申込」が示す賃貸市場の構造変化
2025年繁忙期で最も象徴的な変化は、従来の内見プロセスを経ない入居申込の急激な拡大です。不動産のDXサービスを提供しているイタンジ(東京都港区)の調査によると、都内の賃貸取引において、実際に物件を見学せずに契約に至るケースは、2023年から2025年の2年間で43.4%から60.2%へと約1.4倍に急増しました。

出典:イタンジ「【2025年都内引越しトレンド】60%以上が「内見せずに入居申込」、2年間で1.4倍に増加」
これは単なる入居検討者の利便性の追求ではなく、賃貸市場における需給構造の変化であると考えることができます。都心部では優良物件の不足により「早い者勝ち」の市場環境が形成されており、入居希望者は限られた選択肢の中で迅速な意思決定を余儀なくされています。
さらに注目すべきは、この変化が特定の年齢層に限定されていない点です。コロナ禍を経てオンライン技術に慣れ親しんだ全世代において、バーチャル内見などへの抵抗感が大幅に軽減されており、賃貸市場のデジタル化が不可逆的に進行していることがわかります。
物件訴求力の新基準
入居プロセスの変化は、物件の競争力を再確認する重要なきっかけです。従来の「実際に見れば良さが分かる」という訴求から、「オンラインで一目で魅力が伝わる」物件づくりへの対応が必要です。高品質な写真・動画コンテンツ、詳細な設備情報の開示、バーチャルツアーの充実などが、今後の成約率を左右する要因になるかもしれません。
市況分析:インフレ経済下での賃料上昇
都市部賃料の急激な上昇とその持続性
2025年繁忙期における賃料上昇は、多くの専門家の予想を上回る規模となりました。都内の一部エリアでは単身者向け物件で月額1万円超、ファミリー向けでは前年比20%以上の上昇を記録するケースも報告されています。
首都圏の主要エリアでは、2015年以降の最高値更新が相次いでおり、特に東京23区では26ヶ月連続での最高値更新という異例の状況が継続しています。
出典:アットホーム株式会社「2025年1月 全国主要都市の「賃貸マンション・アパート」募集家賃動向」
この賃料上昇は一時的な需給調整ではなく、複数の構造的要因が複合的に作用した結果と分析されます。
第一に、供給制約の長期化があります。建築資材費高騰と人手不足により新規供給が大幅に抑制される中、都心回帰による需要回復が重なり、需給バランスが大きく需要超過に傾いています。
第二に、購入を断念した顧客が増え、賃貸市場への需要流入が顕著になっている点です。住宅価格の高騰により購入を断念した層が賃貸市場に留まる「購入のあきらめ需要」が、特にファミリー層において賃料上昇を後押ししています。
賃料上昇の持続性と限界点
しかし、この賃料上昇には警戒すべき側面もあります。一部エリアでは入居者の支払い能力の限界に近づいており、さらなる上昇は需要の頭打ちを招く可能性があります。賃貸オーナーとしては、短期的な収益最大化よりも、中長期的な稼働率維持を重視した慎重な賃料設定が求められる局面に入ったと考えられます。
地方との格差:二極化経済の縮図としての賃貸市場
地域間格差の拡大メカニズム
2025年の賃貸市場で最も深刻化した課題は、都市部と地方の賃貸需要格差の拡大です。首都圏では賃料上昇局面でも堅調な成約が続く一方、地方では賃貸需要が低迷し、空室率などが高まっているケースも多くあります。
この賃貸需要の格差拡大の背景には、日本経済全体で起こっている変化の影響です。グローバル企業の本社機能集約、高付加価値産業の都市部集中、リモートワーク普及による地方分散効果の限界などにより、賃貸需要の地域間格差が拡大しています。
外国人労働者需要の地域偏在
注目すべき新たな需要要因として、外国人労働者の急増があります。就労外国人数が300万人を突破し過去最高を更新する中、その多くが首都圏に集中しており、都市部と地方の需要格差をさらに拡大させています。
地方賃貸オーナーの戦略転換点
地方の賃貸オーナーにとって、従来の「待ちの経営」から「攻めの差別化戦略」への転換が急務となっています。外国人入居者への対応強化、テレワーク対応設備の充実、地域特性を活かした独自の付加価値創出など、積極的な競争力向上策が生存戦略として不可欠な段階に入ったと言えるでしょう。
金利上昇の影響:投資環境の構造的変化
17年ぶりの金利水準が示す政策転換
2025年1月、日本銀行が政策金利を0.50%に引き上げたことは、2008年以来17年ぶりの水準となり、不動産投資環境の根本的な変化を象徴する出来事となりました。
プレミアム物件への影響は限定的
金利上昇にもかかわらず、都心部の優良物件群では価格上昇が継続しています。これは主要な購買層である機関投資家や富裕層にとって、わずかな金利上昇が投資判断に与える影響が限定的であることを示しています。
地方・中低価格帯物件への深刻な影響
一方、変動金利でローンを組む個人投資家にとって、金利上昇は収益性に直接的な悪影響を与えています。特に地方物件を中心とした中低価格帯の投資用不動産では、金利上昇による収支圧迫が深刻化しています。
高収益が期待できる都心部優良物件への集中投資か、金利上昇リスクを考慮した保守的なポートフォリオ構築か、各投資家の資金力と リスク許容度に応じた戦略選択が重要となっています。
今後の展望:戦略的資産運営の新時代
都心部オーナーに求められる高度化戦略
都心部の賃貸オーナーにとって2025年は追い風の年となりましたが、今後はより洗練された運営戦略が求められます。入居者のライフスタイル変化に対応した設備投資、特にテレワーク環境の充実や IoT 技術の導入などが差別化の鍵となります。
2025年以降の設備投資では、従来の「あると良い設備」から「ないと選ばれない設備」への認識転換が必要です。高速インターネット、防音性能、ワークスペース確保などは、もはや差別化要因ではなく必須要件となりつつあります。
地方オーナーの生存戦略
地方の賃貸オーナーにとっては、従来の経営モデルの抜本的見直しが急務となっています。個別物件の魅力向上だけでなく、立地特性を活かした独自の付加価値創出が生存戦略として不可欠です。
人口減少が進む地方においても、ニッチな需要を的確に捉えることで収益性を維持することは可能です。例えば、リモートワーク移住者向けの高品質住環境の提供、高齢者向けサービス付き住宅への転換、外国人労働者向け住宅の展開など、地域特性に応じた戦略的転換が成功の分岐点となるでしょう。
また、収益性の低い地方物件の売却と、都心部優良物件への資金集約を検討すべき時期に入っています。ただし、地方物件の売却は早期に着手しないと、今後さらに条件が悪化する可能性があります。立地適正化計画の進展により、同一市町村内でも物件価値の格差が拡大することが予想されるため、戦略的な判断が求められます。
まとめ:新常識に適応する賃貸経営への転換
2025年の賃貸繁忙期は、デジタル化の加速、都市部集中の激化、金利上昇による投資環境の変化など、複合的な変化が同時に進行しました。
賃貸オーナーにとっては、この変化を単なる一時的な市況変動ではなく、賃貸経営の根本的なパラダイムシフトとして捉えることが重要です。従来の「建てれば借り手がつく」時代から、「戦略的に運営しなければ生存できない」時代への移行が完了したと言えるでしょう。
成功の鍵は、変化への早期適応と継続的な戦略見直しにあります。市場環境が急速に変化する中、2025年下半期以降の不確実性に備え、今こそ中長期的視点での経営戦略の再構築に取り組まれることを強くおすすめします。
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